園長先生、見てください!

園長 東 晴也

 突然、私の背後から「園長先生、見てください!」と言って、珍しくていねいな言葉遣いでお願いをする園児がいました。年長組の仲良し二人組でした。二人は、すぐ私の背中を離れて、ホールへ向かうと、すぐにある動作を始めました。いわゆる体操の側転です。「えっ」と、驚く私を振り向くこともなく、何度も側転を繰り返す二人。特に、Mさんは延々とこの動作を繰り返しました。

 「すごいねー、上手!」と、私が褒める言葉も全く意に介さず、数回この動作を繰り返した後、二人はすーっと私の目の前からいなくなりました。「えっ」これでもういいの!?これで満足したのかどうか私には分かりません。呼びかけに応えてくれたことだけで満足したのでしょうか?!

 人には「その時(とき)」がある。声をかけたいとき。見てほしいとき。声をかけてほしいとき。手を握りたいとき。見つめたいとき。ひとりになりたいとき。話したいとき……。この二人にとって、今は見てほしいときだったのだろうか。もし、そうなら、そのときを見つめることができて、本当に良かった。