どんぐりと園長

園長 東 晴也

 3連休明けの9月19日(火)の朝早く、幼稚園の玄関脇に、コナラやクヌギの木の実など、いわゆるどんぐりが、たくさん落ちていました。緑色のもの、まだ帽子を被っているもの、まん丸で大きな茶色のもの、つぶれているものなどいろいろでした。「これはどんぐりの背比べだな」と、私はおかしくてすこし笑いかけて、思い出したのです。『どんぐりと山猫』という宮澤賢治の童話を。

 皆さんは、宮澤賢治の『どんぐりと山猫』をお読みになったことがあるでしょうか?『イーハトーブ童話集 注文の多い料理店』の中に収められている短編の童話です。かねた一郎君が山ねこからとつぜん手紙(日付はなんと九月十九日付です)をもらい、ひとりで山に出かけて行って、どんぐりたちの裁判をするというお話です。

 私は、地面にばらばらと落ちているどんぐりを見てこの作品をふっと思い出しました。また、午前中、このどんぐりを手に持って遊んでいるA君を見かけ、その姿が「かねた一郎」くんと重なって見えたのですね。

 宮澤賢治は、熱心な仏教徒でしたが、キリスト教の影響をかなり受けていると考えられています。『どんぐりと山猫』では、「自分がいちばんえらい」と主張するどんぐりたちに対し、一郎くんは「ぼく、お説教で聞いた」というお話を引用し、一瞬にしてそのめんどうな裁判を終わらせるのですが、その「お説教」というのがどうも教会の聖書のお話らしいのです。

 作品の中では、一郎くんは、山ねこからもらった手紙(山ねこの住所は書いてない)と自分の感性だけで、山ねこがいる場所へ不思議とたどり着きます。どんぐりと遊ぶAくん、子どもにしか感じることの出来ない自然の不思議さをかぎ分けられる嗅覚は、もう二度と私には与えられないでしょう。子どもだけがもつ自然に対する鋭敏な感覚・感性を、大切にしたいと思わされた朝の出来事でした。

 

*「『園長!』の写真日記」は、ひかり幼稚園在園児及びそのご家族を念頭に、その日にあった出来事を写真と共に振り返りつつ、執筆するものです。