対話が成立する瞬間

園長 東 晴也

 私がこれまでの教員時代に大切にしてきたことの一つは、「対話する」ということでした。生徒と一対一の対話、つまり「生徒の話を聴く」ということです。生徒の言葉を全力で聴く。関心をもち、生徒が何を伝えようとするのかを聴くことです。そうすることで、生徒はほんの少し心を開いてくれるようになったのをこれまで何度か経験してきたからです。
 ところが、幼稚園に来て、大変失礼な言い方かもしれませんが、私の実感として、子どもたちと対話ができないのです。特に、年少さんの場合は、話しかけても園児が固まってしまう、というのでしょうか、返事がないといいましょうか、そこで会話は終わりなのですよね。私のことが怖いのか、なんと返事していいか分からないのか、そもそも私の言葉の意味が分からないのかが分からないのです。(全て私の勉強不足、経験不足なのです!すみません。)
 年少さんのなかに、よく一人で遠くを見つめているような、自分の世界をもっているけど、それを表現しないでいるような園児さんがいます。1学期の間、何度か私はそのAさんに声をかけましたが、ほとんど返事はありませんでした。ところが、1学期の最後の終業日、そのAさんは私に初めて「えんちょーせんせー!」と、突然声をかけてくれたのです。
 そして、先日の9月の誕生会の翌日、私は園庭で三輪車に乗っているAさんに話しかけてみました。「昨日は誕生会だったね。おめでとう。ドレス姿とっても素敵だったよ」との私の言葉にそのAさんは、笑顔ではっきり「ありがとう」と言ってくれました……。はじめてです。そのAさんと言葉のやりとりが出来たのは。嬉しかったです。
 どの園児にも、ちゃんと声をかけよう。今日のAさんのように、いつか遠くない日に対話が成り立つ瞬間が来ることを信じて。

 

*「『園長!』の写真日記」は、ひかり幼稚園在園児及びそのご家族を念頭に、その日にあった出来事を写真と共に振り返りつつ、執筆するものです。